last modified: 2024-03-11 00:04:10
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放射輝度 (Radiance)

──分かった気になってたら実は分かってなく、ついに理解したと思ったらやっぱり理解していない──
CGの計算過程、表示において最も重要な単位である放射輝度についてです。 \begin{equation*} L \Prta{\vx, \vomega} = \frac{\d^2 \mathrm{\Phi}}{\cos{\theta} \d A \d\vomega} \hspace{5mm} \Brk{\mathrm{W \cdot m^{-2} \cdot sr^{-1}}} \end{equation*} 一般的なCGの文献において、放射輝度は上の式:「微小立体角あたり、投影微小面積あたりの放射束」として定義されています。面積と立体角に関する微分となっています。放射束自体、単位時間あたりに移動する光子のエネルギーですから、これも微分で表されるのですが、CGではその部分を考えることは少なく、放射束を最もプリミティブなものとして考えます。

立体角

平面角
(a) 平面角
立体角
(b) 立体角
図1. 平面角と立体角

立体角(solid angle)って何?って思った人がいるかもしれませんが、これは文字通り所謂一般的な角度、平面角の立体版です。単位にはステラジアン $ \Brk{\mathrm{sr}} $ が使われます。stereoなラジアンですね。平面角は、「平面上の一点から出る2つの直線間の開き具合」、言い換えると「平面上の一点から出る直線が単位円上を動く範囲、"長さ"」と言えます(図1(a))。立体角は前者よりも後者の拡張と考えると恐らくわかりやすいでしょう。「空間上の1点から出る直線が単位球面上を動く範囲、"面積"」となります(図1(b))。平面から空間へと次元がアップしたことで、単位円上の"長さ"が単位球面上の"面積"へと変化しています。平面角は1周回ると $ 2\pi $ (= 単位円の円周)ですが、立体角は全方位回ると $ 4\pi $ (単位球の表面積)です。立体角は面積だけを考えるため、上の図のように任意の形状をとっても関係ありません。立体角はスカラー量ということです。

平面角に関する積分
(a) 平面角に関する積分
立体角に関する積分
(b) 立体角に関する積分
図2. 平面角と立体角に関する積分

\begin{equation*} \int_{R_\theta} f \Prta{\theta} \d\theta \hspace{10mm} \int_{R_\phi} \int_{R_\theta} f \Prta{\theta, \phi} \sin{\theta} \d\theta \d\phi = \int_{R_\vomega} f \Prta{\vomega} \d\vomega \end{equation*} 2次元の極座標系において積分を考える場合、角度 $ \theta $ に対する微小平面角は常に $ d\theta $ で $ \theta $ の値自体には非依存でした。一方で、3次元の極座標(球面座標)に関して積分を考える場合、天頂角 $ \theta $ と方位角 $ \phi $ に対する微小立体角は $ \d\vomega = \sin\theta \d\theta \d\phi $ で表され、天頂方向ほど微小立体角は小さくなります。

放射発散度と放射強度

放射発散度
(a) 放射発散度
放射強度
(b) 放射強度
図3. 放射発散度と放射強度

放射輝度の説明の前に2つ物理量、放射発散度と放射強度について説明します。

\begin{equation*} M = \frac{\d^2 \mathrm{\Phi}}{\d x \d y} = \frac{\d \Phi}{\d A} \hspace{3mm} \Brk{\mathrm{W \cdot m^{-2}}} \end{equation*} 総放射束量 $ \Phi \Brk{\mathrm{W}} $ を放出している面を考える場合、その中の一点から放出される放射束は、総放射束量を位置に関して微分したものと言えます。これを放射発散度(radiant emittance, 図3(a))と呼び、記号 $ M $ で表し単位は $ \Brk{\mathrm{W \cdot m^{-2}}} $ となります。放射発散度はある微小面積からあらゆる方向へと放出される放射束量なので方向は考えません。放射発散度は放出される量ですが、それに加えて反射も考える場合はラジオシティ(radiosity、記号$ B $)と呼ばれます。また放射発散度とは逆に、ある面に入射してくる場合の物理量は放射照度(irradiance、記号$ E $)と呼ばれます。

\begin{equation*} I = \frac{\d^2 \Phi}{\sin{\theta} \d\theta \d\phi} = \frac{\d\Phi}{\d\vomega} \hspace{3mm} \Brk{\mathrm{W \cdot {sr}^{-1}}} \end{equation*} 総放射束量 $ \Phi \Brk{\mathrm{W}} $ がある点からなんらかの分布を持ってあらゆる方向へ放出されている場合を考えます。このときある方向への放出量は総放射束量を微小立体角で微分することで求められ、これを放射強度(radiant intensity, 図3(b))と呼び、記号 $ I $ で表し単位は $\Brk{\mathrm{W \cdot {sr}^{-1}}} $ となります。

放射輝度

放射輝度
図4. 放射輝度

\begin{equation*} L \Prta{\vx, \vomega} = \frac{\d^2 \mathrm{\Phi}}{\cos{\theta} \d A \d\vomega} \hspace{5mm} \Brk{\mathrm{W \cdot m^{-2} \cdot {sr}^{-1}}} \end{equation*} それでは本題の放射輝度についてです。これは既にお分かりかもしれませんが、放射発散度と放射強度を合成したような物理量です(図4)。放射束を"投影"微小面積で微分したものを、さらに微小立体角で微分することで求められます。分母の $ \cos $ 成分以外はそのまま理解できるかと思います。この $ \cos{} $ 成分は微小面を斜めから見たときの見かけの面積(= 投影微小面積)を表現します。微小面積 $ \d A $ からある量の放射束が放出されていることを考えれば、投影された微小面積 $ \d A^{\perp} $ のほうが小さくなるため斜めから見たほうが密度は高くなることがわかります。

放射輝度の説明によくある図
図5. 放射輝度の説明によくある図

放射輝度の重要な性質として、真空中においてはどんなに距離を進めても一定ということがあります。ここで個人的に「ん?」と思ってしまった点として、ある点Aから点Bへの輝度を考えるとき、2点間が遠い程点Bが受ける光子の数が少なくなって輝度の不変性が満たされないんじゃ?というのがあります。よく輝度の説明として図5のようなものがありますが、これも「あれ?距離に応じて拡がってるから届く光の量が下がって行くような・・・」と思ってしまう原因だと思います。しかし放射輝度は「密度」です。遠くなれば点B( $ dA $ )が受ける光子の数は確かに減りますが、点Bから見た点Aの見かけの面積(= 微小立体角)は減少するので「密度」としては変化しません。

なお、放射輝度の式は「$ \vomega $ 方向にある微小面に微小時間あたりに到達する光子の数」と言い換えられることもあります。これは最初何を言っているんだとも思いましたが、「$ \vomega $ 方向にある微小面」を主役として考えれば、単に出射ではなく入射に関して同じこと言っているだけだと思います。ある方向( $ \d \vomega $ )からある点( $ \d A $ )に対して向かってくる放射束( $ \d^2 \Phi $ )ですね。

以上、放射輝度についての解説でした。

参考文献

  1. [Jensen2002] Henrik Wann Jensen(著), 苗村 健(訳) - "フォトンマッピング―実写に迫るコンピュータグラフィックス", 2002, オーム社

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